つばめプロジェクトインタビュー Vol.1
川崎市宮前区にて交通と医療をかけ合わせた実践的かつ先進的な取り組みが行われているつばめプロジェクト。今回は立ち上げに関わった鎌田クリニック・看護師の内田さんと、パル調剤薬局・薬剤師の今野さんにお話を伺いました。
つばめプロジェクトとは
今福
今日はつばめプロジェクトについてお話を伺いたいと思います。まずは、つばめプロジェクト全体の概要を教えてください。
内田さん
つばめプロジェクトは大きく三つの柱で動いています。つばめ号(交通・居場所づくり)、健康効果測定(名古屋大学との連携)、つばめフレンズ(月2回のイベント)です。つばめフレンズはもともと「バスに乗ってもらうための目的の場所づくり」として始まりました。
今野さん
最初は本当につぎはぎみたいな感じで走りながら考えていました。川崎市の方がメインで場所取りや周知をしてくださって、私たちは講師集めと「次何しよう」をやっていた感じです。
内田さん
最初は内容をさぐりながら、マッサージ、フレイル予防、体操、今野さんのヨガなどいろいろやりました。トヨタや損保ジャパンにも協力いただいて、電動車イスやボッチャもやりましたね。
今福
プロジェクトとして体制が整ったのはいつ頃ですか?
今野さん
令和5年8月に運営協議会が立ち上がって、令和6年4月頃からLocaliSTの作田さんがまとめ役になりました。チラシ作りも最初は私と内田さんで手作りでしたが、今は作田さんにお任せしています。年度内のプログラムも決まってきています。
暮らしの保健室と、顔の見える関係
今福
内田さんは「暮らしの保健室」も運営されていると伺いました。
内田さん
水野さんという地域の元保健師の方と一緒に立ち上げました。月1回、第三水曜10時から12時。地域の方から「やってくれないか」と声をかけていただいて、籍を置かせていただいている感じです。
今福
つばめフレンズにも、暮らしの保健室に近い側面があるように感じています。
内田さん
保健室って言っても、決まった型はないんです。相談できる場所、話ができる場所があればいい——そういうイメージです。つばめフレンズも、そうなりつつあります。看護師だと分かっているから「この症状、どうしたらいい?」と相談に来る方もいます。でも、話すだけでいいという方も多い。
今野さん
顔が見える関係を大事にしたい。それが私たちの活動の根っこにあると思います。
薬に頼らない地域へ
今福
今野さんはフレンズ以前から地域に出られていたそうですね。
今野さん
川崎市の「暮らしのセミナー」に講師登録したのが10年以上前になります。高齢者向けにお薬の講座をしていたんですが、1時間座っているだけでは足りないと感じて、ヨガインストラクターの資格も取りました。医学部の実習生にヨガを教えたり、営業マンの方が有償で通ったり——フレンズ以前から、地域との接点はありました。
今福
薬剤師として、地域活動を続ける原動力は何ですか?
今野さん
20代の頃から、薬だけに頼る医療への抵抗がありました。眠れないと言われて睡眠薬を出すのではなく、日常生活をリフレッシュさせることの方が重要ではないかと考えています。アロマテラピーの資格もその延長です。医療費の適正化も、ずっと考えてきたことです。人口構成を見ても、今のルールのままでは持たないと思います。だから、薬以外の選択肢を地域で提案したいんです。
内田さん
今野さんは本当にすごいですよ。地域のことをたくさん教えてもらっています。
口伝えで広がる場
今福
フレンズに関わってうれしかったこと、参加者の声で印象に残っているものはありますか?
今野さん
「この地域にいてよかった」と言ってくださる方、ご主人を亡くしてふさぎ込んでいた方が「ここがあって助かった」と言ってくださったこと。本当にたくさんあります。
内田さん
友達ができた、ここでしか会えない人がいる。来てくださった方がご近所さんを連れてきたりすることもあります。口伝えが一番効果的な広報ですよね。
今野さん
SNS世代ではない高齢者の方は、お医者さんの言うことより友達の言うことを信じる方も多いです。男性の参加者が増えてきているのもうれしいですね。男性の孤立、就職氷河期世代の問題——相談にも「ラストワンマイル」が必要だと思っています。
内田さん
最初は10人にも満たなかったのですが、今は30人くらい参加していただいています。タウンニュースに載ったら「載っていましたね」と声をかけられます。新聞は読まないけどタウンニュースだけは読んでいる方が多いんです。
今福
僕も大学で高齢者向けの測定イベントをやったとき、タウンニュースに載せたら50人近く来てくれました。すごい媒体ですよね。
今野さん
本当に。フレンズには毎回新規の方が来られます。
善意で成り立つ持続性
今野さん
持続性ですね。経済的な面では、今は善意で成り立っている部分が多いです。区役所出張所でやる以上、参加費は材料費しか取れません。講師はほぼボランティアです。昨年度は社会福祉協議会から年間10万円の補助で、わずかな謝礼が出せるようになったけれど。
内田さん
講師の先生に謝礼をもう少し渡せたらな、とは思います。参加費を取りたくても、区役所でやる以上難しいです。
今野さん
薬局はM&Aが盛んで、オーナーが変わったらどうなるか不安もあります。「儲からない活動」と見なされることももちろんあります。でも、お金に変えられない価値はあると信じています。
今福
名古屋大学の健康測定のフォローアップはいかがですか?
今野さん
連絡先は控えていないので、こちらから「そろそろいらっしゃりませんか」と声をかけるのが難しい。地域の「顔が見える人」が何人かいて、橋渡ししてくれるのが理想ですね。
自分事にするために
内田さん
若い頃は「地域のことは自分に関係ない」と思って生きてきました。でもバスの居場所づくりで始めてみたら、「こういう場は必要だ」と実感しました。自分だけいいと思っていても、人に伝えるのは難しい。若者たちにも知ってほしいと思います。
今野さん
今は市バスが便数多く通っているから「つばめ号なんて不要」と思う人もいます。でも退職後、医療と買い物の足がなくなれば、出かけない人が増えて介護・医療の負担も膨らむ。交通と健康と医療は切り離せません。啓発活動もイベントの中でやっています。
内田さん
「自分でできることは自分でやる」という文化を、今の高齢者から始めてほしい。100歳まで歩ける体をつくっておかないといけないですよね。
今野さん
交通と医療の親和性の高さに、10年前は気づいていませんでした。こういう気づきを、1人でも多くの人に伝えたいです。
内田さん
もう「なくてはならないもの」になりつつある。参加している方から「続けてよ」と言われる。クリニックの院長先生も協賛金を出してくださる。そんな力が集まって、みんなの気持ちを動かせる——すごいことだと思います。
今野さん
多摩区の若い人たちもインスタでつながって、楽しみながら地域活動をしています。そういう姿も参考にしながら、つばめフレンズも育てていきたいと思います。
2026.01.05 インタビュー・写真撮影:今福